誰かがわたしの枕元に立っている。
いったい誰だろうと思うけれど、目を開くことができない。見えない糸でまぶたが縫いつられてでもいるかのようだ。
ちりちりとした熱が向けられているのがわかる。
穏やかだが隠すつもりのない熱心さで、ひたい、まぶた、ほほ、唇、首もとへと降りていくそれは、おそらくその誰かの視線だろう。
やがて、頬になにかが触れる。皮膚がそのかすかな刺激を、既知のものだと脳に伝えた。私はたしかにこれを、彼を知っている。絹のような感触は、しなやかで長い黒髪だ。
なんだかとても暖かい気分になった。
わたしは一つの名前を呼びたいと思った。けれど、その名前を思い出すことができない。わたしの体のどこもかしこも、それを記憶してはいないようだった。
唇が何度も虚しく開閉する。かなしくて涙があふれた。
すると、艶のある低い声が、そっとわたしの名前を呼んだ。
それはわたしの鼓膜に刻みつけられていたとおりの響きで、わたしは、確かに彼を愛していたことを「思い出した」。
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