夜道にて


a「すっかり遅くなってしまった。もう真っ暗だ」
b「きちんと足元を照らしてくださいよ」
a「おっと危ない、つまずいた」
b「そら、貸してごらんなさい」
a「上手に照らすものですね」
b「あなたはやたらと振り回すから」
a「あちこち眺めて歩くのもいいでしょう」
b「よくありません。このあたりは街灯もすくないというのに」
a「ああどうりで、星がよく見える」
b「足元を見ていないと転びますよ」
a「ねえ、月が綺麗ですね」
b「聞いているんですか」
a「雲間から光って、風情がありますね」
b「…今夜は三日月でしょう」
a「ええ、綺麗な三日月だ」
b「私は見ませんよ。足元が危ないのだから」
a「きれいだなあ」
b「そんなに綺麗ですか?」
a「ええ、ほんとうに、綺麗です」
b「……」
a「……」
b「ならば今宵のあの月を、わたしがあなたに差し上げましょう」
a「えっ?」
b「受け取ってくださいますか」
a「え、ええ! よろこんで」
b「では、ちょっとお手を拝借」
a「え? い、いたたたた! ちょっと何するんですか!」
b「ほら、どうぞ」
a「……」
b「これが、あなたの三日月です」
a「……」
b「しばらく消えませんよ」
a「……結構痛いんですけど」
b「綺麗な三日月でしょう」
a「ええ、くっきりとした」
b「…………」
a「…………」
b「…………」
a「あ、」
b「はい」
a「ありがとうございます…?」
b「…………」
a「あ、あれ、お礼でいいんですよね……?」
b「……このにぶちん」

(2014.02.11)

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